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履歴書は立派な職歴がすべてか? フェイクCV実験

アメリカのエンジニア採用シーンでは多くの企業が履歴書の自動スクリーニングシステムを利用しているそうです。人事の人間が読む前に、良さそうな履歴書だけを絞り込ませているのですね。

履歴書をいくら送っても企業からまったく連絡が来ないあるエンジニアが、バズワードだらけだけれども明らかにフェイクの履歴書を送ったところ、Notion, ApartmentList, Quizlet, Outschool, LiveRamp, AirBnB, Blend, Reddit, AirTable, Dropbox, Bolt, Robinhood, Mux, Solv, Grubhub, Scale.ai, Atlassian など名だたるIT企業から書類審査の通過と面接の連絡が来たそうです。その成功率なんと90%

UCBで学び、マイクロソフト、リンクトイン、Zillow、インスタグラムという職歴。すばらしいですね。

しかし中身を読んでみると、職歴の詳細がたいへんなことに。

  • 個人サイトのリンクを開くとリックロール
  • Node.js や C++ と並び、ミア・カリファ(ポルノ業界出身のタレント)のエキスパート
  • React を使ってブロックチェーン上にAIを実装
  • サーバーサイドReact 窃盗API によるチューニング
  • 会社のサーバでマイニング
  • コーヒー豆を14ナノメートルの粒子に挽く
  • AIベースのGraphQL を追加
  • みのむし競争を通してチームの和を醸成
  • ラナ・ローデス(ポルノ女優)を420fpsで表示させるスクリーン体験を実装
  • ヴォルデモートDBやリザードンを使ったLinkedIn検索の改善
  • Reactベース(2012年に?)のビッグデータパイプライン構築
  • ブロックチェーン上にEdgeブラウザを実装
  • トランプを支持するマイクロソフト社員の会を先導 (2012年に?)
  • チームの6割に性病を普及させた
  • 大学では友愛会で一晩のウォッカ最高杯数を記録

こんな感じの履歴書でも、次々とメールが届き、面接の調整に進むことができたそうです。

ツイートでは、名のある企業の人事からの連絡とやりとりもいくつか紹介されています。メールの文中に「私の成果物紹介」としてリックロールの流れるURLを貼り付けても平然とメールのやりとりが続いてるのは相手がリンクを開いてないからでしょう。

結局のところ、FAANG や GAFA を筆頭とする有名IT企業で働いた経歴が含まれてさえいれば、中身は読まれずに書類審査は通る、ということかもしれません。

有名IT企業とのやりとりを自作することはできるので、この実験をフェイクではと疑うことはできそうです。しかし、元の実験者は「信じられないならこの履歴書をコピーし、名前を変えて応募してみればわかる」と。

reddit の議論では、採用に関わった人の体験談も寄せられています。履歴書スクリーニングのアプリは実際に存在し、企業側が期待するキーワードのリストをアプリに与えることでそれらのキーワードが多数でてきた履歴書を通過させているんだ、ということ。

それを逆手にとって、「友人は『聞いたことはあるがそれほど知らない技術:』という項目を作っていた」とか「すべてのバズワードを末尾に極小の白いフォントで並べておけばどうか」(昔のSEOでありましたね)とかいうアドバイスも出ています。

「自分なら『マイクロソフトの開発したAzure、Googleの開発したGCP、Amazonの開発したAWSを利用したことがある』『最初に使った深層学習ライブラリはGoogleのTensorflow だがFacebookの開発したPyTorch に切り替えた』と書くね」は、好まれそうなキーワードを詰込みつつ嘘はついてないという意味でいい手かもしれません。

僕も昔アメリカで採用側だったことがあるので、ちょっとした空きポジションに大量の応募が来ることは身をもって体験しています。そして大量にくる履歴書に条件に合わないものやピントが外れたものがとても多いことも。

本当はできないことでも「できます」と言って売り込むのが当たり前の世界なので、募集側もすべてに目を通していられないのですが、それがプログラムによる自動フィルタを普及させ、そしてそのフィルタがたいして高性能でもないことから、こんな履歴書ハックが通ってしまうんでしょうね。そして一次審査する人事の人の多くは技術の名前に詳しくない。

一度出した履歴書を差し替えることができないだろうから、書類審査を通過しても先々の面接でいずれ必ずボロは出ると思いますが、書類が誰の目にも読まれずに捨てられるとすれば愚痴をいいたくなる求職者もいるでしょう。

via twitter

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LinkedIn でウケる話

ビジネスパーソンのための素敵な話があったのでご紹介。

ある日、面接に向かう途中、迷い犬を見つけた。

腹をすかせ、疲れ切っていた。

誰もが無視していた。

しかし私は違った。弁当箱を開け、私のランチをあげた。

餌をやっていたせいで遅刻し、面接は受けられなかった。

がっかりして家に戻った。

次の日、同じ会社から面接をするから来るようにと連絡が来た。

驚いたけど、とにかく向かった。

従業員にはCEO室へ通された。

5分後、CEOが入ってきた。

それは、上品なスーツに身を固めた先日の犬だった。

犬は愛らしく吠え、尻尾を降り、採用通知を渡してくれた。

涙が込み上げてきた。

君たち、その日こそ、善行をおこなうのにためらうべきではない、と私が実感した日だった。

カルマは犬の形としても現れるのだから。

LinkedIn – Nikhil Narayanan

いい話ですね。よい転職を望む人々を勇気づけてくれます。島耕作かと思いました。

この話、少しずつ形を変えながら各所に流通しているようです。こちらはツイッターで47万件のイイネを集めたもの。エッセンスを取り出してよりコンパクトにしたのが良かったのかな。

リンクトインの有名人

昨日面接に行く途中、飢えた犬を見かけた。立ち止まってエサをやったため面接を逃してしまった。翌日、電話で面接に来るように言われた。驚いたけど行ってみた。入って来た面接官はあの犬だった。

このツイートへのリプライであったこちらは、この手の「転職面接いい話」がコピペされ、複数のLinkedIn ユーザーによって消費されているという実例。

まったく同じ「いい話」が多数の異なる面接官の体験談として共有されているようです。

転職ネットワークの人達も、ほっこりした話に飢えているんですね。

via Board Panda

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アメリカ

大学中退を卒業と偽ったためにグーグルに解雇された人の話

Hacker Newsに出ていた話。

Throwaway account Hi HN. I need some help to deal with my mental situation (捨てアカウントです。メンタル的な状況にどう対処するべきかで助けてほしい) という題で、とある第三世界の国から永住権クジに当たってアメリカに来て、その後グーグルで職を得たエンジニアが、夢の仕事だったグーグル社を去る羽目になった理由を告白しています。

自国の大学でソフトウェア工学を学んでいたこの男性は、5年前の卒業間近に、アメリカのくじ引き永住権に当選します。ビザの取得費と片道の航空券だけをなんとか贖えた男性は、妻と一緒にアメリカに来るのですが、ビザの期限との兼ね合いで大学を卒業しないまま国を離れてしまいました。

そういう事情から学士号を取らずにやってきた男性ですが、プログラマとして職を見つけ、5年間のうちに転職でより良い会社への移籍を繰り返します。そしてたどり着いたのがグーグル社。

2回目の面接でついに同社の職を得た男性、同社からの身元確認の調査票に「誤って」卒業(graduated)のところをチェックしてしまいます。学士号みたいなものの有無を訊かれてるのだと思ったけど、高校を出てから4年間、コンピューターの学部に通ったのだし、卒業証書はないけど最後の学期までいたのだから、と。

数週間後、この男性はグーグル社の人事からメールで連絡をうけます。「あなたが持ってると主張している学位の存在を確認できませんでした」、と。

それへの彼の返答はこうです。「学位は実際には持ってないんだ。でも学校に行って、全部のクラスを履修した。ビザの状況で書類の手続きをしなかっただけなんだ。」

この返答で、彼の解雇が決定的となりました。人事の言うには、「この振る舞いはごまかしであり、彼らを馬鹿にしたのだ」と。彼自身は、「どこかの知らない大学を出たかどうかなんて誰が気にするんだ」ぐらいに考えていました。

彼の上司は彼に満足しており、要求されていた以上の仕事がこなせる、と主張し、彼をグーグルに勧誘したリクルーターも保証してくれたそうですが、人事には通用せず、犯罪を犯したかのように扱われた、と。

リクルーターの言うには、この結果は同社に記録され、もう二度とグーグルに採用されることはないだろう、と。

解雇されてからは精神的にまいってしまい、眠れずに解雇を伝えられたミーティングのことを思い出したり、考えてもしょうがないのに過去の判断を公開するばかりだと。

この匿名の投稿に対する反応にも厳しいものがあり、結果かれは元の投稿をすぐに削除してしまいました。

一番支持されているコメントは、この男性がまだ「技術力が十分だった」「仕事の能力に問題はなかった」と書いていることを問題視するものです。「アメリカの社会では、Integrity(誠実さ、一貫性)が非常に重要なんだ」と。「アメリカ人の視点では、もしそこで嘘をつくなら、他の状況でも嘘をついたり倫理的でないことをするだろうと見る。そして、グーグルのような多数の秘密情報を持ちデータアクセスへの特権を信頼する社員に与える企業にとって、それは大きなリスクになる」と。

と同時にこのコメンテーターは、男性の文化的背景ではそのことはそこまで重大な問題ではなかったんだろう、ということには理解を示しています。

実際に学位のないGooglerもいるわけだし、学位と無関係に採用されたと思ったなら、チェックをつけなければそれで何の問題も無かった可能性もあるでしょう。また、クジで永住権を得たために、移住自体には何の学位チェックも不要だったことも背景にあるかもしれません。労働者ビザならそれを取る段階で学位やその種類が厳しくチェックされていたでしょうから、移住自体が無理だったかもしれないけどグーグルに解雇されることもなかった。学位無しでもビザが取れていたとしても、学位をごまかすことの重大さを学んでいたかもしれず、結果嘘は付かなかったかもしれません。