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ネットの事件

「ブラック」「黒」のついたネガティブな言葉は人種差別か?

話題になっているこちらの記事、

「ブラック企業」は、人種差別用語である | トレンド | 東洋経済オンライン

私はこの「ブラック企業」という言葉を以前からずっと「人種差別用語」、あるいはそれに類する言葉だと思ってきた。この言葉を耳にする度に、「ああまた、人種差別用語が使われている」と心を痛めてきた。使ってはいけない言葉だと思っている。

その発想は無かったなあ、というのが正直な感想。最初に「ブラック企業」と言い出した人は、ブラックリストなどからの連想でつけたのではないかと思うんですけどね。

記事では、映画「マルコムX」の中で「黒」がついた英単語が如何に悪いイメージのものばかりか、と語る場面を引用しています。 例として、blackmail(脅迫)、blackball(追放)、blackguard(ごろつき)、などが出てきています。

# 史実をベースにしたものでしょうけど、映画は映画ですし、実際にはこういう会話があったのかどうか。

海外で実際にそんな主張があるのか、支持されているのか、すこし検索してみました。検索上位に出てきた「ブラックなんたらは差別的(?)」というページはこんなかんじ。

デイリーメール

Met Police ban the word “blacklist”; over claims it is racist | Mail Online 2012年5月

ロンドン市警、「人種差別だ」とのクレームに応じブラックリストをブラックリスト入り、レッドリストへ言い換え。

デイリーメール紙の記事であり、他のちゃんとしたメディアが報じてないので、与太話の可能性が高いかと思います。レッドリストは、絶滅危惧種などのリストを指す際に使われてる言葉でもあるので、赤に変えるのもどうかなというところですが。

デイリーメール紙の記事でも引用されていますが、オックスフォード辞書でのブラックリストの説明では、1624年にイギリスで使われた例が最古のもののようです。特に黒人に関係して成立した言葉という証拠も無さそう。

ナイジェリアの新聞The Punch

Opinion セクションなので、新聞記事というより読者の投書ではないかと思うのですが、Azuka Onwuka さんが「ブラックなんたら」に関してまとまった考察と提言をされてます。2014年3月18日

前半は、西洋人がイエス・キリストを映画にしたら、なんで浅黒い肌の中東系じゃなくてヨーロッパ人みたいな白い肌に青い目になるのか、悪魔ルシファーは明けの明星が名前の基なのにどうして黒で表現されるのか、といった西洋文化に対する不満の表明です。

そして、fat(太っている)を”plus size”(大きめサイズ)とかpoliceman(男性警察官)をpolice officer(警察官)、chairman(男性会長)をchairperson(会長)などと置き換えようとするほど差別に敏感になっているのに、どうしてblack を含む悪い言葉は気にならないのか、と続きます。

ここで例示される単語は、black sheep(集団の中の厄介者), blackleg(詐欺師), blackmail, blacklist, black lie(悪い嘘 ⇔ white lie), black book(ブラックリストに同じ), black spot(事故多発区域), black head(黒にきび), the Black Death(黒死病), black September(ブラック・セプテンバー), the Dark Continent(暗黒大陸, ハンターxハンターじゃなくてアフリカを指す), dark-hearted (腹黒い)、など。

# 勉強になるなあ

「唯一blackでポジティブな単語はblack belt(黒帯)だが、これはヨーロッパからじゃなくて日本の格闘技から来てるからだろう」だそうです。

「アフリカ系アメリカ人がこれらの言葉を禁止させるように運動していないのは驚きだ」とも述べてますが、コメント欄の反応は冷ややかです。

Stack Exchange の英語板 – たくさんの代替案

技術者Q&Aコミュニティの StackOverflow の運営で知られるStack Exchange による、英語の使い方Q&A サービスEnglish StackExchange にあった質問です。

Alternative term to “Blacklist” and “Whitelist” (ブラックリスト と ホワイトリスト の言い換えを探しています)

SIMカード管理システムを開発している会社に居ますが、「ブラックリスト」と「ホワイトリスト」という言葉について、問題になる可能性があるのではと誰かが言ったんです。

とても簡単でわかりやすい言葉だと思うのですが、人種的な問題を引き起こすなら、それは望むところではありません。

ブロックトリスト、非ブロックトリスト、許可リスト、など代替案を考えてみましたが、ピンときません。

本当にこれらの単語は問題なのでしょうか? もっと良い単語はありますか?

8件の回答者の一人も、ブラックリスト/ホワイトリストが差別的だとは言っていません。コメント欄も含めて、それは考えすぎだろう、というのが全体の調子です。

その上で、それでも代わりの単語を考えるなら、というので出されたアイデアを列挙しておきます。

nice / naughty (わんぱくな)
good / ungood
block / safe
block / alright
allow / deny
accepted / rejected
go / no go
yea / nay
pass / stop
go / stop
pro / con
yes / no
green / red
we / de
good / bad

最終的に、この会社の人たちは ブラックリスト / ホワイトリスト のままで行くことに決定したようです。

英語ではないカタカナ語の欠点

「ブラック企業」を、英語で伝える時に “black company” と間違ってしまう、という元の著者の指摘については、一理あるとは思います。和製英語のカタカナが頭にあると、英語を話す時にどうしても間違ったり、つっかえたりする事があるんですよね。「ブラック」という英語が元の命名をしたいなら、英語にもともとある表現、英語でそのまま通じる表現の単語を使って貰えるとそういう間違いが減っていいのかなあとは思いますが。