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プルリクエスト <「あ、すいません今ロシアに侵略されてて忙しいので…」

@insky さん作のVue のカラーピッカーライブラリ insky/vue-gpickr に対するプルリクエストのディスカッションの中で、「進捗どうですか? 🙂」という一ユーザーからの何気ないコメントに応じた @insky さんの返事がこれ

ああ、すいません。もう少し時間がかかりそうです。今私の国はロシアの侵略からの防衛中で、今ちょっと忙しいんです。数日のうちにはあなた方の問題に取り組めればと願ってます。

ウクライナに栄光あれ!

O, so sorry. I need more time. Right now my country defending russian invasion, so I’m a little busy now. Hope in few days I’ll return to your problem.

Glory to Ukraine!

これはプルリクエストどころではありませんね。GitHub ユーザーから多くのリアクションマークや応援のコメントがつけられています。

ウクライナ、2014年のマイダン革命の際にも同じような事件が発生していたようです。

I will take a look later. Much much later. Because I’m Ukrainian and we have revolution right now. Sorry

後で見ておきます。たぶんずっと後で。私はウクライナ人で今革命の真っただ中なので。すいません。

@insky さんの無事を願いたいです。

via Hacker News

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「イスラエルからのプルリクエストは受けられません」- オープンソース貢献と国際紛争

PHPの人気フレームワーク Laravel にダウンロードリンク生成機能を追加するオープンソースのパッケージで、機能追加の提案がイラン人の作者によって却下されるという事件が発生しました。却下の理由はイランの法律だそうです。

armancodes/laravel-download-link は、Laravel 上でファイルダウンロードのリンクを生成するパッケージ。GitHub で管理されるオープンソースのライブラリで、ダウンロードリンクの時間による失効や IPアドレスによるアクセス制限などの機能を持っています。作者は @armancodes で、プロフィールではテヘラン在住となっています。

これに対し、ユーザー @Yiddishe-Kop が、特定のユーザーにだけダウンロードを有効化させることができる改造を提案しました。当初は受け入れられそうなコメントの流れでしたが、作者による以下のようなコメントで、PRは却下されてしまいました。

すばらしいアイデアをありがとう。

たいへん申し訳ないのですが、このPRをマージすることはできません。私の国の法律で、イスラエルからの人やイスラエル政府と関係を持ってはいけないという法律があります。

理解してもらえることを願います。あらためてあなたの時間に感謝します。

Hi, Thanks for your great idea.

I’m SO SORRY to tell you that I cannot merge this PR. There is a law in my country that we MUST NOT have any relationship with people from Israel or the Israel government.

I hope you understand this, and again thanks for your time.

他ユーザーも交えた議論が少し続いた後、元Google/Facebookのエンジニアでイラン系カナダ人で、今年イランへ入国した際に逮捕投獄され、アメリカへ戻ったらイランのスパイになるよう脅されて解放された、と発表した Behdad Esfahbod氏 (@behdad)が「ただマージすればいい(Just merge it)」とコメントした後で、プルリクエスト自体が作者によってクローズされてしまいました。

ユーザ名 @Yiddishe-Kop のの Yiddishe(イディッシュ)の部分は東欧系ユダヤ人の話す言語イディッシュ語(Yidish)にもあるようにユダヤという意味の言葉で、アカウント名に「ユダヤ」と入っていることからイラン人の作者が「気づいてしまった」というところはあるように思います。

プルリクエストの最初の方では、パッチの提案に感謝して取り込むためのテストコードを追加したりもしているので、名前に気づく前は普通に受け入れるつもりだったのでしょう。却下のコメントも悪意はまったく感じられず、むしろ申し訳ないと思っている風に読めますし、現地での法律がそうなっていてしかもインターネットに公開されている場所で、個人の判断で受け入れたりすることはもしかしたら作者が危険な状態になる可能性もあるのかもしれません。

また、Hacker News の議論では、そもそもアメリカ企業のGitHub はイランや北朝鮮からのアクセスを制限しているはずで、国籍による排除についてはどっちもどっちだ、という意見もありました。すべての機能が制限されているわけではないですが、利用規約を厳格に適用すると、イラン在住の作者の方が実はGitHub を使えないという可能性もあります。

GitHub については、他にシリアやクリミアからのアクセスも(IPアドレスによる位置情報らしきものを根拠に)ブロックしているという報道もあります。

今回はイスラエルとイスラム教国の間でしたが、世界が(再度)大きく2分されていく感じもある昨今、二大国の間で直接とか、それぞれの息のかかった国の間でとか、オープンソースとその貢献活動についても、面倒な事件がいろいろ出てくるようになるのかもしれません。そういった事とはなるべく距離を置きたいというエンジニアも多いのではと思いますが、普段パッチ提供者の国籍や居住地など気にすることもないでしょうし、誰もが突然こういった問題の当事者になってしまう可能性はありますね。