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ネットの事件

「サルたちの狂宴」筆者が書籍中の差別的発言で最近入社したAppleから解雇される

シリコンバレーでのネット広告スタートアップの起業・売却と、合流先のフェイスブックでのマネージャーとしての奮闘を描いた2016年の書籍 Chaos Monkey (邦題: サルたちの狂宴)の筆者 アントニオ・ガルシア・マルティネス氏についての炎上事件です。

日本語版も出ていて、シリコンバレーのスタートアップの人たちがどんな考えでどんな暮らしをして 出版時はそれなりに話題になったと思います。

今回の炎上はリアルタイムの発言ではなく、このベストセラーの中の文章に対して起こったものです。

SNSでいちばん出回った書籍のスクリーンショットはこの部分、

「ベイエリアの女たちは多くがやわで意思が弱く、甘やかされていて、世の中をわかっているといいながら本当のところ世間を知らない。基本的にたわごとばかりだと言っていい、」

“Most women in the Bay Area are soft and weak, cosseted and naïve despite their claims of worldliness, and generally full of shit,”

「自己愛的な権利としてフェミニズムをまとい自立した自分を絶えず誇示する一方で、実際のところ、たとえば疫病が流行したり外国に攻め込まれたりすればまさに役立たずのお荷物になって、散弾銃の弾やら燃料の入った容器やらと交換するために差し出されるのがオチだ。」

“They have their self-regarding entitlement feminism, and ceaselessly vaunt their independence, but the reality is, come the epidemic plague or foreign invasion, they’d become precisely the sort of useless baggage you’d trade for a box of shotgun shells or a jerry can of diesel.”

なるほど。こんなこと書いてたんですね。読んだはずなんだけど覚えてない。全体的に露悪的でくだけた感じぐらいには思ったかもしれませんが。

指摘されたあとにじっくり読んでみると、揶揄されている女性の立場であれば間違いなく不快に思う文章だなとは思うわけですが、何も考えずに先へ読み進めた自分にもこういう物言いを許容してしまう部分が有ったのかもしれません。

表現は自由ですから、このような女性蔑視、女性差別的な文章を書いて出版することだけで大問題になることはないかと思います。書いたものに批判されることも、レビューに書かれることもあるでしょう。実際に発売後にこういったトーンが書籍中にあふれていることを批判したブログなどもあったようです。

ただ今回これが炎上してしまったのは、この4月にアップル社が著者のマルティネス氏を「わざわざ」招聘したことが原因のようです。

マルティネス氏のこの著書内でのものの見方に対して、アップル社の中で情報共有のメッセージが還流し、多様性(ダイバーシティー)と包摂(インクルージョン)を唱えるアップル社の方針に反して氏が採用された原因の追究を求めた請願がまとめられ、そこには2000人以上の社員が署名したということ。

結局アップル社はマルティネス氏を解雇するに至るのですが、この騒動をレポートし続けていたThe Verge へ以下のようにコメントしています。

「アップルでは、包括的ですべての人が敬意をもって受け入れられる職場を作り上げるために常に努力しています。人々を貶めたり差別したりする振る舞いが存在する余地はありません」

“At Apple, we have always strived to create an inclusive, welcoming workplace where everyone is respected and accepted. Behavior that demeans or discriminates against people for who they are has no place here.”

氏がアップル社で新たに果たそうとしていた職務についてははっきりわからないのですが、ベストセラーでありシリコンバレー界隈では特に読まれたであろう書籍ですから、アップル社内で氏を招聘しようとした人たちが氏の姿勢について知らなかったとは考えにくいようです。それを特に問題視していなかったか、問題を上回る能力を期待してのことか、あるいはその両方か。

via The Verge, Independent, Jezebel

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ネットの事件

ローカルSNSのNextdoorが、差別的な投稿前に警告する機能を実装

ご近所の人とつながるアメリカのソーシャルネットワークサービス Nextdoor が、投稿の前に「人種差別的な」内容を検知して再編集を促す機能を実装済みだと発表しました

これらのスクリーンショットでは、「黒人の命だって大事だ(BLM = Black Lives Matter)」運動に対して、「すべての命が大事だ(All Lives Matter)」や「制服で働く人たち(=主に警官)が大事だ(Blue Lives Matter)」というコメントをしようとする人に再考を促しています。

動画のデモもあります。

Black Lives Matter について話し合っているところに「どうして黒人の命(Black Lives)だけ? 私はすべての命が大事(All Lives Matter)と信じます」と書き込もうとしたら、警告画面が出てきます。

デモでは、打ち込んだ文章を全部消して「もっとあなたの考えを聞かせてください」に書き直して投稿しなおしています。穏当な文章ですが上記のような意見を書こうとした人が実際にこんな変更するかしら、という気もします。

ちなみに Nextdoor ではこれまでも、侮辱的な単語を含む書き込みをしようとした人に警告を出して翻意を促す機能を2019年からつけていて、それによって無礼な(incivil)書き込みのコンテンツが30%減少したんだそうです。今回はこれを人種差別的な書き込みにも展開したということ。

書き込む内容について書き込む前に「助言」されることはいいことなのか、論争になりそうではあります。ALM などについては、この言葉を持ち出す時点で批難されるSNSは(一部のSNSを除けば)多くなっているかと思いますし、投稿した後で通報が多数来て見えなくなる、というSNSもあるでしょう。投稿前の警告と投稿後に消されるので、結果としては同じようなものという場合もあるでしょうけど。

via The Verge

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ネットのサービス

英語の求人文章から「男性的」「女性的」な表現の偏りをチェックしてくれるサイト

イギリス内閣府とNPO団体 の共同運営するAppliedは、ジェンダー差別や人種差別を廃し、公正で多様性のある採用ができるような支援機能を多数持つ求人サイトだそうです。

そのような機能のうちの一つ、あなたの書いた求人の文章のジェンダーバイアスをチェックしてくれるオンラインツールは、デモとして無料公開されています。

試しに、ネットに公開されているシニア・プロダクトマネージャー募集のサンプルを与えてみたところ、こんな判定が出てきました。

男性的(masculine)と判定された単語は、

  • leader (リーダー)
  • confident (自信いっぱいの)
  • analyze (分析する)
  • lead (リードする)
  • leadership (リーダーシップ)

女性的(feminine)と判定された単語は

  • responsibilities (責任)

求人広告に書かれた文章は、その職務のことだけでなく、企業組織やその文化についてのヒントを応募者に与え得るそうです。Applied は、男性的な言葉ばかり並べた募集の文面は女性の応募を遠ざけ、結果的に多様性の無い組織を作ってしまう、と主張しています。求人を書くときに、無意識にどちらかの性の人物を想定して、言葉を選んでしまっていないか、ということでしょうね。

他にも同様の注意を呼び掛けているサイトはあり、バイアスの少ない文章が求人で重要、という考え方はAppliedだけの発想ではなさそうです。

サービスは最低プランが無料から始まるフリーミアムで、ユーザー1人で使うだけなら無料である程度使えるようです。

海外に支店があったり、グローバライズした製品やサービスを売ったりしなければいけない日本企業では、英語で求人しなければいけない、という状況もあるでしょう。英語で正しく文章を書くだけでも大変ですが、文章に含まれる微妙な偏りや差別については、文法的な正しさとはまた違った知識や経験が必要そうですし、このようなツールに一回かけてみて、あまりに一方的な判定結果が出た場合はちょっと考えてみる、というのは安全のためにもいいかもしれないですね。

via New Scientist