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アクセント付きアルファベットの名前を登録できないEUの銀行はGDPR違反

EU 内の銀行で、氏名のアルファベットにグレーブ(á)とかウムラウト(ü)とか、アクセント記号がついている人が本名を登録できない、という問題に対する訴訟があり、アクセント記号が登録できないのはGDPR(一般データ保護規則)違反である、という判決が2019年に出ていたそうです。

テレンス・エデン氏(Terence Eden)のブログによれば、銀行がアクセント記号つきの氏名登録を拒絶したのに対し、この顧客はEU一般データ保護規則(GDPR)の16条「訂正の権利」を根拠に訴えるに至ったそうです。

この16条は以下のようなもの。

The data subject shall have the right to obtain from the controller without undue delay the rectification of inaccurate personal data concerning him or her. Taking into account the purposes of the processing, the data subject shall have the right to have incomplete personal data completed, including by means of providing a supplementary statement.

データ主体は、管理者から、不当に遅滞することなく、自己と関係する不正確な個人データの訂正を得る権利を有する。取扱いの目的を考慮に入れた上で、データ主体は、補足の陳述を提供する方法による場合を含め、不完全な個人データを完全なものとさせる権利を有する。

一般データ保護規則(仮訳)

これに対し銀行は、1995年に開発された米国製メインフレーム上のアプリを使っており、このシステムが1964-65 に制定されたEBCDICコード表を使っていることから技術的に対応不可能なのだ、と弁明していたということ。

実際のところ、EBCDIC にもCode page 37などアクセント記号に対応したセットがあり、これを使うように設計しなかったシステム設計の問題のようですが、EU内の人の移動が今ほど活発でなかった時代、アクセント記号を使わない国の銀行では少数の外国名顧客のことまで考えていなかったのでしょうね。

本来の正しい文字で氏名を登録できない、という意味では漢字かなを使ってる日本人なんかは絶対にヨーロッパの銀行では登録できないだろうと思いますけど、それはまあ日本がEU加盟国ではないのでそこまでは要求されることはなさそうです。でもEU域内の加盟国で使われる文字に非対応なのはだめでしょうね。

今ならUnicodeベースで作るでしょうから、EU向けに提供するサービスでアクセント記号を氏名に入れられないなんてことはなかなか起こらないとは思います。しかし、うっかり入力文字のフィルタでA-Za-zなんてことをしていると、こういう苦情が来る可能性は十分にありそうです。

判決が話題になったのは今ですが、判決自体は2019年に出ていたものです。銀行は25年前のシステムを直せたんでしょうかね?

via Twitter

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読者コメントを「過去に遡って全部実名に切り替えます」と発表して恐慌を引き起こした米地方新聞社

アメリカ北西部モンタナ州ビュートの地方新聞社モンタナ・スタンダード(Montana Standard)が去年の11月に発表したのが、新聞社サイトのニュースへのコメント欄の新年からの実名化。

匿名者によるネガティブなコメントに飽き飽きしていたらしいこの新聞社、編集者の『この実名化によって「匿名コメントの持つ腐食性」を食い止められるでしょう』という実名化への動機が紹介されていて、「実名なら人はひどいことを書かないはず」という信仰がいまだ根強いことを感じます。

# これが誤解であることはフェイスブックを見れば明らかなんですが。

しかし、この今回の変更の最大の問題点は、新しく書かれたコメントだけでなく、過去にサイトに書かれたすべてのコメントについて、表示名(screen name)で表示されていたものを本名(real name)に変えるところにありました。

実名での表示を望まない人は12月26日までに「なぜ自分のコメントを削除すべきか」理由を添えて申請するように、と案内されていましたが。そんな新ルールを過去のコメントに対して適用されてしまうことに対して怒った読者がコメント欄に殺到。

結局、申請締め切り前の12月中旬に、この新聞社は「過去のコメントは全部、単に削除します」と訂正を入れて騒動は収まりました

過去のコメントの内容自体には、役に立つものや貴重なものもたくさん有ったでしょうに。どうしても実名制に移行したいなら、過去分だけニックネームのままにする、という手もありそうなものですが、新聞社の声明によれば、同社のコンテンツ管理システム(CMS)の制限のために、全削除という対応に変わったということ。

この事件から得られる教訓

コメント欄に書くための会員登録ですが、「実名」のところも好きな名前を入れられたようです。

「実名」と「表示名」欄があることで、つい実名の方には本名を書いてしまった人も多かったのだろうと思いますが、まさか後になって実名の方が広く公開されてしまうことになろうとは、想像しなかったというところでしょう。

しかし、本名を登録したサービスが後々どういう方針に変わるかなんてわかりませんし、買収等でまったく別の会社があなたの本名を別の目的で使うこともあるかもしれません。

今回は苦情が多くて撤回されましたが、そもそも必要もないところで本名を記入したり与えたりしない、というのが、賢いネットの歩き方と言えるのではないでしょうか。最初から与えていなければ漏れることも悪用されることもないわけで。生年月日やら何やらもね。