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ネットの事件

デルタ航空がオーバーブッキングで乗れない人数を最小に、しかもコストも少なく済ませている仕組み

ユナイテッド航空がオーバーブッキングの影響でベトナム系アメリカ人医師を強制排除した動画がネットで大炎上した事件をうけて、オーバーブッキングの話がニュースで多く取り上げられていますね。

航空会社はどこも、予約をしたけど乗らない人の率を予想して、実際の座席数より多めにチケットを売っています。乗らない人を除いたらぴったり満席になるのが一番儲かるので、ギリギリになるようにこの多めの予約(オーバーブック)を調整するのですが、たまにこの予想が外れることがあります。そうすると、満員から溢れた誰かは予約した飛行機に乗れなくなってしまうことになります。

今回のユナイテッドの炎上は、1. どうしても後の飛行機では困る人を強制的に選んで、2. 不十分な補償をオファーした上に、3. 警備員を使って暴力的に降ろそうとした、ことで発生した、(願わくば)特殊な事例だと思います。普通は、急いでなくて金銭やホテル等の補償が多ければ譲ってもいいという人が現れて、なんとか定員に収めて飛ぶわけです。(また、今回の事件は、搭乗させる前の段階で調整せずに、全員を飛行機に搭乗させてしまった後で調整しようとしたこともボランティアを得られなかった原因かと思います。一回乗っちゃって落ち着いてから降りるのは、よりキツイですよね)

ユナイテッド航空は、オーバーブッキングで降ろされる割合が比較的多い方

補償に賛同して他の便への振り替えに同意する人をvoluntary(自発的な)乗れない客、同意しないけれど何らかの優先順位の結果乗れない客をのことを、、「involuntary(望んでいない)搭乗拒否 」と言うようですが、アメリカ拠点の各航空会社で実際にこの乗れなかった人たちがどれぐらい発生しているか、という統計がありました。2017年3月のレポートの34ページに、2016年一年間の実績が載っています。

問題のユナイテッド航空は、表中の0.43が示すように、乗客100万人につき43名が、手を上げたわけでもないのに乗れなかった客ということになります。それに対して、同じような規模のデルタ航空は、0.10、つまり乗客100万人につき10名にしか、このような事に巻き込まれていません。実に1/4です。

# なお、ユナイテッドの炎上の後にソーシャルメディアで流れまくった、サウスウェスト航空のロゴに「私たちはあなた(客)ではなく競合をやっつけます」という非公式なジョークがありましたが、サウスウェスト航空の同じ統計は、ユナイテッド航空よりはるかに多いものでした。まあ、それでも警備員が殴って降ろしたりはしてないでしょうけど。

デルタ航空のシステム的な工夫

PBSの解説によると、デルタ航空は2011年から、とある仕組みの導入によってこの率を低く抑えた上に、オーバーブックから漏れた顧客への補償についても低く抑えることに成功しているのだということ。

その仕組みはというと、空港の自動チェックイン機やネットでのオンラインチェックイン時に、「もしオーバーブックで乗れなくなったとしたら、あなたは幾ら貰ったら協力したいと思いますか?」とあらかじめ訊いておく、というもの。

このシステムのおかげで、ゲート前に搭乗客が集まった時点で、デルタ航空は安く手を上げてくれる顧客のリストを持っていることになります。リストの上位から順番に呼び出して同意を求めていけば、たとえ「チェックイン時には$*00ドル(円)ならと言ったけど、気が変わった」という人が何人かいたとしても、どこかで必要な人数を確保できそうです。何しろ自己申告で本人が一回言っている額なのですから。

また、このやり方にはもう一つのメリットがあるそうです。他の航空会社のように、搭乗ゲート前で全員に対してボランティアを募集すると、それに対する客の温度感がお互いわかってしまいます。慣れている乗客なら、募集の様子からどれぐらい切実に席を開けないといけないのか(=どれぐらい高額の補償が出そうか)も推測できたりするのかもしれませんし、係員が元々「あと〇人の協力者が必要です」などと手の内をさらしている場合もあるでしょう。手がなかなか上がらないようなら、応募してもいいかなと思っている顧客たち同士が「もうちょっと様子を見ると金額はまだ上がるかもしれないぞ」などと牽制しあうかもしれません。それに対して、デルタのように個別にあらかじめ訊いておいた金額では、顧客側にはどれぐらいの補償を取れそうかという予測のための情報がありませんし、顧客間での協力も起こる余地がないので、全体としての補償のコストも低く抑えられているということです。

ボランティアの発見に掛かる時間も減らせるので、離陸の遅れも減るでしょうし、そもそもこのような喜ばしくない体験をする顧客の割合を少なくすることは、企業イメージの維持にも寄与するでしょう。何から何まで良い結果を生んでいるというわけですね。良い数字が実際に出ているのだから、他社も同様の手法を取ればいいような気もするのですが…

via Inverse