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2008年07月24日

Alexa(アレクサ)でニコニコ動画のアクセス数が下がってるって本当?

Markezine併載コラム


回答: いいえ、アレクサではそんなことはわかりません。

と、Alexa徹底解析講座をお読みいただいた方には言うまでもないことなのですけど。

アレクサのグラフの読み方を理解せずに書かれた次の記事

【トレビアン】ニコニコ動画のアクセス激減!? その原因は……

が一人歩きして、2ちゃんねるを中心に話題になっているようですね。

リンク先の記事では、アレクサのグラフの傾きでニコニコ動画のアクセスが激減(!)していると書かれているのですが、そもそもアレクサのグラフはアクセス数の絶対値のグラフではないし、アレクサのグラフが右下に傾いていても、アクセス数が減っているとは限らないのですからこの主張に意味はありません。

グラフが右肩下がりになる要因

アクセス数の増減と無関係にグラフが右肩下がりになる理由はたくさん考えられるのですが、たとえば、

  • 5月に行なわれた統計処理の変更が影響した
  • 日本人のAlexaツールバー利用が減った
  • ある程度のユーザーがパソコンではなくモバイルからの視聴に移った

といった仮説は立てられます。もちろん、これで全部ではないです。

上記の仮説について解説していきましょう。

2008年5月に統計方法の変更があった

開発者ブログをずっと読んでいるとわかりますが、Alexaは、そもそも非常に少人数のチームで、予算もあまりない部署で運営されているようです。いろいろな欠点は昔から言われているのですが、長らく放置されていました。

しかし、Markezineでもレポートしていますが、今年4月15日に開発者ブログで集計アルゴリズムの変更が行なわれることが予告されています

この時に、変更の前後でデータの連続性が無くなるかもしれない、ということは仄めかされています。そして、以前は過去5年間にわたって見ることができた過去のトレンドが、2007年の夏以降の分しか見えなくなっています。これも、新旧のデータで整合性が取れなくなったからでしょう。

また、この新システムでは、ツールバー以外のデータも合わせて利用することも言われています。HitwiseのようなISP経由のデータ収集ではとも言われていますが、詳細は不明です。

日本人のAlexaツールバー利用が減った

アレクサの統計は世界中を相手にしているので、アジア等のネットの活動が活発になるほど、日本のネットユーザの活動は相対的に小さくなっていきます。つまり、日本のサービスの場合、大きく伸び続けていないサービスはすべて、実際にはアクセスが伸びていてもアレクサでは右肩下がりになる可能性があるのです。

さらに、それに加えて、アレクサツールバーのインストールベースが減少する要因はたくさんあります。

主なものとしては、まず、PCやブラウザの変更。Internet Explorerは6から7に、Firefoxは2から3に移行しつつありますが、PCの買い替えやブラウザのアップデートの際に「使っていない」等の理由でアレクサツールバーを再インストールしないことはあるでしょう。
また、アンチウィルス製品の中には、閲覧しているURLを外部に送信するアレクサ・ツールバーを好ましくないソフトとして排除するものもあります。個人や会社でのアンチウィルス製品の普及によっても、日本人のアレクサツールバー利用は減っている可能性もあります。

パソコンではなくモバイルでの視聴に移った

これもアレクサ絡みでは良く見落とす人がいますね。

mixi(ミクシィ)とSecond Life(セカンドライフ)をAlexa(アレクサ)で比べても無意味な理由とは?でも話しましたが、アレクサ・ツールバーが動かない環境、携帯電話やウェブブラウザ以外の独自クライアント等でどれだけアクセスがあっても、アレクサには反映されません。

ニコニコ動画はモバイルもやっていますが、運営者側からみればどちらもサーバへのアクセスは同じです。パソコンで見ていたのがモバイルでも見るようになった人、というのがどれぐらいいるのかわかりませんが、そのような人がどれだけいるか調べずにアレクサでパソコンでしか見ない人の数字の変化を追っても、サーバ側から見たアクセスのトレンドとは違うものしか見えないでしょう。

また、IEやFirefoxといったアレクサツールバーが入る環境以外でニコニコ動画を見ている人も考慮しないといけません。Mac Safariのユーザもそうですし、ニコニコ動画の場合は閲覧用の専用ブラウザもあるので、それらの普及率や利用率も調べないと正しいところはわからないでしょう。

「アレクサはダメ、○○なら信用できる」?

また、今回の件でアレクサ以外の方法(ネットレイティングスとかコムスコア)なら信用できる、と書かれている人もいますが、これもそんな単純な話ではありません。

有料でやっていれば正確、というものでもないですし、集めたデータをどのように処理しているか、のところがブラックボックスで見えないのですから、どの会社のデータにしても正確かどうかはわかりません。

ランダムにサンプルを採用しているから、入れたい人がツールバーを入れるアレクサより正確、というような意見についても、そのランダムがどれぐらいランダムなのかというのを検証する必要があるでしょう。携帯ユーザのデータはどこも収集できていませんし、ネットレイティングスは「メガパネル」というアレクサツールバーと同様、申し込みベースでデータ提供者を集める手法も始めています。

米国では、それらの調査会社が宣伝文句通り中立公平にデータを集めていることを監査させようという意見も出てきていますが、今のところは謎の処理で出てきた謎の数字を、「おおむねあっているようだ」という経験から利用者が信用して使うという状態でしかないのです。

それは、CompeteでもGoogle Trends for websiteでもPathtraqでも同じです。インターネットの利用状況を完璧に調べることは無理なのですから、何か一つの数字だけ持ってきて、それで増えた減ったを主張するのは、インターネットの仕組みを理解していないか、あるいは自分の主張したいことに合った結果だけを持ってきている可能性があります。

筆者の所属するサイボウズ・ラボでもPathtraqというのをやっているので、「Pathtraqなら完璧」と言えると格好よいのですが、Pathtraqも、もちろん、完璧ではありません。パネルが日本人ばかりなので、日本での利用者だけについて見るときはアレクサよりいい点はあるかもしれませんが。

人は簡単な答を望むもの

「激減」という言い切りの記事を書けば注目されるでしょうけれど、「よくわからない」では記事にはしづらいでしょうね。

「その情報では減ったかどうかわからない。増えている可能性もある」と長く書いても、よく読まない人や興味が浅い人は読み飛ばすでしょう。

この記事を読まれても、たぶんすっきりしないだろうとは思いますが、ネットは学校のテストじゃないので、なんにでもはっきり白黒がつく解答があるわけではない、ということですね。

[参考]

NetRatingsのMegapanelリリース [pdf]

投稿者 秋元 : 2008年07月24日 13:49

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コメント

その記事はあくまでも関係者の声をもとにアレクサを参照しただけだと思うのだが。

どっちにしてもネットレイティングスで下降傾向と発表されたしニコニコダメじゃね?

投稿者 MONO : 2008年07月24日 17:28

ほう、関係者って誰ですか? ニュース記事で名前等明らかにせずに「関係者によると」と書いてあることを鵜呑みにするのは危険だと思うのですけどね。

ネットレイティングスの発表というのもどれを指されているのかわかりませんが
http://www.netratings.co.jp/HTML_News_top.html

MONOさんが有料レポートを買われて、そこにそう書いてあるということをここで発表されているということでしょうか?

ニコニコ動画がダメかどうかは、僕は興味ないです。アレクサの読み方と無関係に、ダメかもしれないでしょう。でもそれはダメだというちゃんとしたデータを見ないと断言できない。

ダメとか良いとか言いたがる人たちが、根拠の薄いデータを出して主張していることについて問題だと言っています。

投稿者 秋元 : 2008年07月25日 10:51

 
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