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書評

書評: つながりっぱなしの日常を生きる ソーシャルメディアが若者にもたらしたもの

アメリカのソーシャルメディア研究者ダナ・ボイド ( @zephoria氏の著作 It’s Complicated の邦訳。

ソーシャルメディアを使う若者への多数のインタビューなどを元に、大人がソーシャルメディアや現在の若者社会について持っている誤解などを解いていっています。

以下、特にハッとさせられた部分。

p.48 治安の悪い地区からアイビーリーグの大学へ願書を出した黒人少年の話。マイスペースではギャングのような発言をしたりしている。大学の審査担当者は願書の中の志のある少年が嘘ではないかと疑うが、著者はそのように自分を見せないとうまく生きていけないコミュニティで苦悩する若者という可能性を提示する

日本でもツイッター等で本来公に見せるべきでないような行動を誇示したり写真を載せたりして炎上している若者が多いが、その中には若者の世界での中の友人関係をなんとか維持しようとするあまりに、本当は自分がそうしたいというわけでなくても社会から見たら問題となるような行動をとってしまうことがあるのでは、という観点。

p.132 「インターネット中毒」という言葉を初めて使った精神科医イヴァン・ゴールドバーグ氏は本気でそれを病気としての中毒と考えていたわけではなかった。何かに熱中してやりすぎる人は何にでもいる。 p.157 ネット中毒という言葉は、子供をネットから遠ざけたい大人の便利な道具となっていないか。

「中毒」ということにしてしまえば、そこで相手を「自分とは別物」と切断してしまえます。自分の趣味は「熱心」で、理解できない趣味は「中毒」と言っているだけなんじゃないか?

p.178 子供の性犯罪被害。実態としては加害者の多くがネットと無関係な知人や家族なのに、メディアはネットの向こうの狡猾な性犯罪者の危険を煽る

p.196 ソーシャルメディアで自分の苦しみを訴えている子供は多いのに、大人がそれを見つけて必要な手助けをすることができていない。

「ソーシャルメディアで若者を騙そうとする悪い大人がいる!」から、「だから使わせるな!」に行くのではなく、「ソーシャルメディアで若者を導こうとする良い大人はもっといる」とでもなればいいのでしょうけど、それをどうやって実現すればいいのか。今のネットで「若者の声を代弁」みたいなことを言っている大人に、良い大人のフリをした悪い大人みたいなのがいるのも事実でしょうし。

p.257 Kinnectのようなシステムが、肌の色が濃いユーザーで認識率が落ちてしまうこと。新しい技術が新たな不平等を産むことがある。

日本の状況と違うところもあるが、おそらく共通する点も多いでしょう。子供が自由に外を歩き回らなくなっている、忙しすぎてオンラインぐらいでしか友達と社交をする暇がない、というアメリカの状況も、日本にやってくるのはすぐのようにも感じます。