Cybozu Labs

光成 滋生

「暗号技術と最適化」で、より安全で効率的なシステムを実現したい

こんにちは、光成滋生です。暗号技術とシステム最適化の研究開発に携わっています。

暗号技術の中でも特に、準同型暗号と呼ばれる暗号化したままデータを処理する技術や、BLS署名やゼロ知識証明などの付加価値の高い分野の実装・研究をしています。

コンピュータとの関わり

小さいころからパズルや科学全般が好きでパソコンにも興味を持ち、パソコン雑誌『Oh! FM (-TOWNS)』の記事をよく読んでいました。 ただ、プログラミング自体は高校生の頃はBASICで小さいパズルを作ったり、大学生になってCで少し遊ぶといった、のんびりとしたものです。

時代と逆行しますが大学院生の頃からアセンブリ言語による高速化にはまり、MP3エンコーダ「午後のこ~だ」を開発しました。 それが広く使われ、自分が作ったものが他の人に使ってもらえる楽しみを知り、2001年に音声や動画コーデックを開発する会社に就職します。 そこではWindowsやMac用のライブラリだけでなく、MIPSや特殊なCPUでの組み込みシステム開発にも関わりました。

その後、FPGAのような専用回路を動的に再構成できる面白デバイスDAPDNAを知り、それを扱うベンチャー企業に転職しました。

数学や暗号との関わり

大学では代数幾何学、特に楕円曲線周りの勉強・研究をしていたのですが、就職する少し前、それらが暗号でも利用されていることを知り、暗号そのものにも興味を持つようになりました。

楕円曲線にはペアリングと呼ばれる数学的な演算があります。 1999年頃からそれを暗号に使うといろいろ面白いことが出来ると気づいて研究していました。

就職してからも(業務外で)暗号の研究を進め、新しいアイデアを書いた2002年の論文「A new traitor tracing」は今までに400件以上引用されています。

そのアイデアを実装するために2004年にIPA未踏ソフトウェア事業に応募し、天才プログラマー・スーパークリエータの認定を受けました。 また、大学時代の知人と多変数連立方程式の解を求めるグレブナー基底計算手法を実装してToyocryptというストリーム暗号を解読し、2005年に経済産業省の情報化月間推進会議議長表彰しました。そのときは大学時代に学んだ代数幾何学の知識が役に立ちました。 そのため、より暗号技術や高速実装の研究を深めたく思い、2007年に現在のサイボウズ・ラボに転職しました。

アセンブリ言語プログラミング

暗号は理論的な仕組みを提案するのが大前提ですが、実際に利用するためには安全で高速な実装も重要です。 暗号理論の研究者、プログラミングの得意なソフトウェアエンジニアというのはそれぞれ多くいますが、両方が得意という人はそれほど多くはいません。。

「今どきアセンブラ(アセンブリ言語)で開発なんてしない」と、30年以上前から言われ続けている気がしますが、現在(2025年)でもシステムの根幹では使われています。

様々な環境でのコーデックや暗号ライブラリの開発経験から、自分が使いやすいアセンブラ、しかも実行時コード生成が出来るものが欲しいと思い、Xbyakを開発しました。

自作ソフトウェアが使われるまで

XbyakはIntel(現在はUXL : Unified Acceleration Foundationに移管)のoneDNNやAMDのZenDNNなどのAIフレームワークで利用され、スーパーコンピュータ富岳用のライブラリの開発にも関わりました( 富岳のディープラーニング処理を支えるJITコンパイラ「Xbyak_aarch64」誕生秘話)。

また、Xbyakを使ってペアリング暗号のライブラリを開発していたら、ゼロ知識証明のzk-SNARKやBLS署名を応用したDFINITYに採用されたのをきっかけにEthereumなどのブロックチェーン系プロジェクトで広く使われるようになりました。

それらの貢献で、2024年にXbyakでGoogle Open Source Peer Bonusを受賞、暗号ライブラリmcl/blsの実装でEthereum PSE (Privacy & Scaling Explorations)のGrantを2件受賞、Microsoft MVP Developer Technologies/C++, Developer Securityを受賞しました。

自分が欲しいもの、面白いと思うものを作っていたらいつのまにか大企業や最先端の分野で使われるようになっていたのは感慨深いものがあります。

2021年に早稲田大学情報理工学科で講演したときの資料「私とOSSの25年」も参照してください。

略歴

OSS活動

受賞・Grant

査読付き国際会議・論文・ポスター

対外活動

書籍

連載

勉強会

連絡先その他