■ インターナショナルGPLv3カンファレンス
11/21(火)から2日間、秋葉原UDXで開催された第5回インターナショナルGPLv3カンファレンスに参加してきました。
第5回インターナショナルGPLv3カンファレンス in Japan
GPLv3 (GNU General Public License Version 3) の策定に関するワールドワイドなイベントで、全世界のフリーソフトウェア活動組織のメンバーが日本に集まる歴史的な会合でした。FSIJの人に聞いてみると、世界規模でFSF関係者が一堂に集まったのでこれが最初でたぶん最後になるかもしれない、とおっしゃっていました。
■ Day 1 : 2006年11月21日(火) インターナショナルデイ
10:00 - 10:45 g新部裕 (FSIJ) Opening Remarks: "Device for Software Freedom" 10:45 - 11:30 Georg Greve (FSFE) GPLv3 and Free Software Movement in Europe 13:00 - 14:30 Richard M. Stallman (FSF) GPLv3 Update: FDL, SFDL and forthcoming draft3 of GPLv3 14:45 - 15:30 Nagarjuna G. (FSF India) GPLv3 and Free Software Movement in India 15:30 - 16:15 Alexandre Oliva (FSFLA) GPLv3 and Free Software Movement in Latin America 16:15 - 17:15 パネル International coordination of Free Software Movement
■ Day 2 : 2006年11月22日(水) ジャパンデイ
10:00 - 10:45 Ciaran O'Riordan (FSFE) Linux kernel: DRM and GPLv3 10:45 - 11:30 Brett Smith (FSF) GPL Compliance 13:00 - 14:30 パネルディスカッション 「GPLv3 and Free Software Activities in Japan」 コーディネータ: 鵜飼文敏 (FSIJ) パネラー: まつもとゆきひろ (Ruby) 岡村久道 鈴木裕信 (FSIJ) 15:00 - 16:30 パネルディスカッション 「Free Software and Embedded System」 コーディネータ: 野首貴嗣 (FSIJ) パネラー: 竹岡尚三 ((株)アックス) 佐藤嘉則 (SIOS Technology) 神田雅透 (NTT) 16:30 - 16:45 Closing g新部 裕 (FSIJ)
仮説その1: GPLv3はツンデレ?
GPLv3カンファレンスに参加する前に私が思っていたのは、GPLv3って実は「ツンデレ」じゃないのか、ということです。GPLv3の最初の草案が出たときは、各界からいろいろとツッコミを受けた「ツン」の状態だったけど、現在では対特許条項の修正も行なわれ「デレ」の状態になったという仮説です。ただ、GPLv3で譲れない部分もあり、それはDRM(デジタルジャイアニズム)とTivoizationの阻止だということが今回のカンファレンスに参加することによって明確に理解できました。これをツンデレと表現して良いかどうかは議論の分かれるところかもしれませんが。やはりライセンスの細かい文言から必死に裏の意図を読み取るよりも、直接ライセンス策定に係っている人から生の意見を聞けて良かったです。誤解も少なく理解も早まりました。
リチャード M. ストールマンについて
初日のリチャード M. ストールマンの講演はかなりアグレッシブで、会場からオープンソースというNGワードを含む質問が出たときに「私はオープンソースに興味はない。多くの場合オープンソースはビジネスモデルや開発モデルのことで、倫理を見ないようにしている。フリーソフトウェアは倫理を重視している。我々は自由なソフトウェア社会の実現を望んでいる。社会運動だ。」と、すかさずモヒカンな回答を返しておられました。ここ十数年の時代の変化によってGPLの解釈に曖昧な部分がでてきたので、GPLv3ではそれを明確化したこと。米国以外の国でも運用できるように国際化の作業を最初からしていること。例えば「distribute」という言葉は意味が広すぎるので「propagate」や「convey」という意味の狭い用語を使うようにしたことなどが挙げられていました。あと、フリーソフトウェアの抱える諸問題をすべてライセンスの変更だけで解決しようとするのは賢くない、という意見も聞けて個人的には目から鱗でした。
仮説その2: GPLはその昔バズワードだった?
二日目のパネルディスカッションで
「過去の日本においてGPLは一種のバズワードだったのではないか?GPLv3は難解で誤解も多いからそれを払拭するためにもGPLv3に代わる新しいバズワードを提唱するべきでは?」
という半分冗談のような質問をしてみました。日本ではGPLを採用したフリーソフトウェアの数が多いという統計がukaiさんから紹介されていたですが、それはなぜ?という話です。単に使用しているライブラリがGPLだったとか、いろいろな理由があったと思うのですが、FSFの理念をきちんと理解してGPLを積極的に採用したソフトウェアって実は少ないんじゃないかという仮説です。過去の自分がそうだったからかもしれませんが、自分で作ったソフトウェアのソースコードを公開するときに、自分自身は開発者だからライセンスの事をあんまり考えたくない、という後ろ向きの理由でGPLを採用したソフトウェアって結構あるんじゃないかと。そのときよく聞くライセンスの中からGPLにしたけど、その後にFSFの理念を理解した、というケースです。日本のGPL専門家と言われる先生でもGPLv3は難解だ、と言わしめるものなので、この状況を打開するにはバズワードによる戦略がまた必要なのではないか、という提案です。本質的な解決にはなっていませんが、企業の中ではGNUやGPLというキーワードに対して良いイメージを持っていない人もいるので。炎上ネタしか扱わないマスコミも逆手に利用して。
IRC Logger
そんな歴史的イベントで私はオフィシャル日本語ロガーとして参加することになりました。講演者の発表を聞きながらイベント専用のIRCのチャンネルでテキストを入力して実況中継する、といった仕事です。XCAST6 や GStreamer による動画・音声のインターネット中継も行なわれていましたが、契約の関係上同時通訳の音声をストリーミングできない、といったこともあり、日本語の情報源としては貴重なものだったと思います。IRCでの中継の様子は以下のような感じでした。
初日はukaiさんとknokさんと私の3人で、二日目はukaiさんとknokさんの発表があるので、fukuchiさんとariさんがさらにロガーに加わっていただきました。他の人の翻訳・要約も見ながらテキスト入力していたので、自分の解釈がたまに間違っていることにすぐ気付くことができ大変勉強になりました。貴重な機会をいただきありがとうございました。
最終日の夜は秋葉原の「万世」でスタッフの打ち上げに参加。 恐縮にもg新部さんと一緒のテーブルで 海外のゲストの方にppencodeのデモをしたり、 田中哲さんとPlaggerの話をしたりしました。
この二日間のカンファレンスに行くかどうか迷いましたが、参加して本当によかったです。 関係者の皆さん、ありがとうございました。