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ソーシャルブレインズ入門――って何だろう

いただいたもの

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人間の脳の研究は、人間に比較的近い猿等を使うにせよ、害のない実験を人間に対して行うにせよ、一つの脳だけを見て入出力を観察するだけでなく、複数の脳とその間の関係性を調べていかなければいけないのでは、またそれを調べないと社会のためとなる研究とはなりにくいのでは、というのがこの本の主張するところでしょうか。
ソーシャルブレインズ、社会脳、という言葉で、著者は複数の人間の関係とその関係の中での脳の働きを記録し、研究する最新の手法について紹介しています。
ラバーバンド実験(マネキンの腕であっても、自分の意識からつながっているように配置して、本物とマネキンの両方に同時に触れるなどして視覚と刺激を合わせると、マネキンの手に対する攻撃を自分が受けたように感じてしまう)など、脳に関する面白い実験なども多数紹介されています。
面白かったのは、人間の脳がチンパンジーの脳に比べて、より少ないエネルギーで効率よくまわさないといけない物理的制約を持っているという話(p.129)で、同じことは前にやったように繰り返すという保守的な傾向が出てしまうのは、このような制約の中で脳内の行動規範の作り変えにかかるコストを減らそうとしてのことでは、という話。社会や政治に脳の動きが影響するのは当たり前といえば当たり前ですが、変化を好まないという性質がそういう根源的な部分から出ている可能性があるという話は興味深いものでした。
また、スタンフォード監獄実験等を引き、人間の倫理観が絶対ではなく、社会に影響されているものにすぎないのでは、という話は、人間があるから倫理ができたと考えている僕にとっては納得のいくところです。
最後の方、乳幼児と親や社会との関係性の話も、子育てを始めたばかりの自分としては気になるところで、考えさせられました。

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「ソーシャルブレインズ入門――って何だろう」への1件の返信

脳への新しいアプローチ:ソーシャルブレインズ入門

ソーシャルブレインズ入門――って何だろう (講談社現代新書)作者: 藤井 直敬出版社/メーカー: 講談社発売日: 2010/02/19メディア: 新書 今までの科学は脳は脳単品でその機能を探ってきた。 それでも脳には分からないことも多いのだが……。 本書の取り組みは、ソーシャルブレインズの文字通り、社会の中でつながる脳を対象とした研究をしている。 脳の働きの新しい側面と、科学のフロンティアに挑む研究者の興奮で、知的刺激を受けること間違いなしの一冊だ。 …

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