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ネットのサービス

Re:scam – 詐欺メールに騙されたフリをするAI自動応答サービス

ニュージーランドでオンライン上の安全を守る活動をしている NPO 団体ネットセーフがリリースした Re:scam は、いわゆる scam mail (ビジネス詐欺メール)を世界から無くそうという野心的なサービスです。

サービスの本体はメールの自動応答 bot で、送られてきたメールをコンピュータ(AI = 人工知能、と言っています)が解析し、適切な返信を生成して返します。では詐欺メール相手の「適切な返信」とは何でしょうか?

それは、ひたすらやりとりを長く続けて、詐欺者の時間的リソースを食いつぶす、というものです。人間のようにユーモアを交え、時には人間のように文章を間違い、ネットの向こう側の相手に「こいつはメールの内容を信じている。もうひと押しすれば騙されて送金してくるかも」と思わせ、やりとりを続けさせるということですね。

Re:scam のトップページは、分割され合成された、様々な性別・人種・年代の人のCG。相手に合わせてどんな人格も演じられる、というメールbot のイメージをうまく表していると思います。

こちらはサービスを紹介する動画

やりとりの実例

サイトの”Can you show me?”セクションから、実際のメールの応答例をいくつか見ることができます。

たとえば、「某国のファンドからあなたが受益者の送金があるのですが… 」という Banking Scam 。先方の理由から大金を受け取る資格があると言われ、しかしその大金を受け取るためには(なぜか)こちらから一定の手数料を先方の銀行に送らないといけない、というタイプの詐欺です。もちろん送ったらそこで連絡は途切れ、手数料は戻ってきません。

詐欺メール(長々と小難しい文章で): お金を受け取れるが、まず大急ぎでそのことを承認してほしい、という内容

botの応答

本当にこの手紙は私宛ですか? ずいぶん公式な内容ですが、私はこれまで相続人になったことはありません。大喜びする前に、本当にそれが私のことなのか確認したいです。

詐欺メール:

あなたが選ばれた相続人であることは間違いありません。あなたの同意が得られ次第、ファンドの送金部門がファンドのロックを解法し送金できます。

(住所、電話、年齢、職業などを別のメールアドレス – それっぽい組織名 – に送るよう指示)

手続きを進めるためには、直ちに必要な情報を彼らに送ってください

bot:

ありがとう。ぜひリクエストされた情報を送りたいと思います。ただ、間違って信頼できない人にメールを送るのが怖いので、あなたのアドレスから私を紹介する形にしてくれませんか?

詐欺メール:

このメールにリプライして情報を送ってくれれば、彼らに転送しますよ

bot:

わかりました。お金がこちらに届くまでにどれぐらいの時間掛かるんでしょう? リーダーズダイジェストの滞納がかなりの額あって、彼らが法的手段に出る前に払いたいのだけれど

詐欺メール:

送金には5営業日掛かるはずです。必要事項が揃わないと送金に着手できません。これらの情報が直ちに提供されることが重要です。

bot:

ありがとう。素晴らしい。営業日ってあなたの国の? それとも私の国の? あなたはどこのタイムゾーンにいますか?

詐欺メール:

必要事項を可能な限り早く送ってください。そうしないと送金は行われません。

他のサンプルも見てると、「住所? 最近引っ越したんだけど今の住所と前の住所どちら?」「**** Google翻訳でロシア語の挨拶を調べたんだけどあってる?」「画像を送りますっていうけど、.jpeg ですかそれとも .pdf? うちのパソコン pdf が開けなくなったんだよね」「送金したいけど本当にお金が無くて。ガソリンスタンドの給油券でもいいかな?」など、なかなか人間くさい応答を作るようです。

「添付ファイルにして送りました」と本文に書きつつ何も添付しない、などの技も使っていました。

使い方

自分のメールアプリで「詐欺メールが来た!」と思ったら、me@rescam.org に転送するだけ。他にすることはありません。後は、Re:scam が元の相手とメールのやりとりを、相手が諦めるまで何日でも、続けてくれます。

英語のサービスなので、日本で実際に使う機会はあまりないかもしれませんが。

こういったサービスがネットの向こう側にいる詐欺集団を疲弊させて、結果としてスパムメールの量や、それに騙される人たちの数が減るといいですね。

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迷惑な電話営業の相手をして、何分も無駄にさせる自動ロボット

via Digg

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ネットの事件

詐欺業者に毎秒28回電話を掛け続けるスクリプトで反撃したエンジニア

国税局を名乗った詐欺業者からの「あなたに脱税の疑いがあり、取り締まりの対象となっているので電話をしてださい」という留守電メッセージ電話を受け取ったセキュリティ開発者が、その後に取った反撃を記録し、動画公開して話題となっています。

IRS(アメリカ国税局)のフリをした留守電メッセージを聴いたこの匿名のセキュリティ開発者は、まずは指定の番号に掛けてます。

電話に出てきた「IRSの」女性は、強い訛りで長々と、原稿を読み上げるように、彼の過去数年にわたる納税に関する間違い、当局が今にも家宅捜索し免許証・動産・銀行口座などすべて差し押さえられること、未払い税の総額、などについて告げます(00:08~01:39)。途中かなり”BS(たわごと)だ”として録音を飛ばしているのですが、それでも長い。

彼が未払いの税の支払いに(もちろんフリで)同意すると、使っている銀行名を訊かれ、相手は上司らしい男性に替わります。男性が「あなたの銀行はあなたが政府とトラブルを起こしていることをまだ知らない。トラブルについて知られると口座が凍結されて引き出せなくなってしまう。まず現金を引き出しなさい」と言うあたりまで聴いて、もう十分だと(詐欺であることは間違いないと)思った彼は電話を切りました。

セキュリティ開発者である彼はもちろんこんなヨタ話に騙されないのですが、他にも多くの人がこのメッセージを受け取っていること、その中には信じて言われるがままに言われたところへ送金してしまう人がいるだろうことを想像し、この詐欺業者を懲らしめることを考えたようです(02:14)。

# 実際、ウィスコンシン州でこの手の詐欺に$6000(66万円) 払ってしまった人がニュースになっています。業者も引っかかる人がいないと続けてないでしょうから、一定数の人は騙されているのでしょうね

彼が書いたスクリプトは、複数の電話番号からこの業者の番号に掛けて、以下のようなメッセージを喋るというもの(02:24)。

ハロー。あなたは詐欺業者であると検出しました。そのため、私たちはこの回線を溢れさせることでこれ以上の詐欺電話を掛けられないようにしています。

02:34 からは、このスクリプトが掛けた電話をモニタした様子です。「はい、こちらIRSの…」と出た相手は、上の自動メッセージを聴かされ続けて、「ああ、また『検出』だ」とか、「お前の名前は?」とか、あきれて歌を歌い始めたり、そのうち、ヒンディー語で悪態をつきはじめます(YouTubeのコメント欄に翻訳あり)。「ああ、これ10-15ぐらいの違う番号から掛かってきてるぞ」というのも。

第一弾の動画が100万回以上再生されたのを受けて、同メイフェムプロジェクトは他のツールも作成し、詐欺業者に対して使用しています。

こちらは、警告文の代わりに「ハロー」を、いろいろな種類の声や速さで言わせるというもの。毎回違う人に聴こえるので、本当に騙されて掛けている人かどうかを知るためには切らずに聴き続ける必要があります。少し時間を置いて、いつもの合成音声で「私は交渉に来た。私は次も、その次も、その次も、詐欺業者を回線から取り除くまで…」と話し続けます。

国税局ではなく、Windowsのライセンス更新でお金を振り込ませる、という別の詐欺業者へも同ツールを使って攻撃しています

スクリプトの内容

スクリプト自身は公開されていないのですが(悪用も簡単ですからでしょうか)、画面に映ったスクリプトからか、動作からの推測か、同じように動くスクリプトを再現してGitHubで公開した人も現れました。

スクリプトはC#で書かれており、電話を掛けるのはTwilioのAPIを使っています。なお、今回のような利用はTwilioの利用規約違反です。

複数の電話番号をTwilioで取得し、それをセットすることで多数の異なる番号から相手に掛けるようにしています。Twilio APIで電話を掛けるのはタダではないので、このエンジニアの行動にもそれなりにコストが掛かっているようで、寄付を募るページをPatreonというサイトで開いています。

自力救済問題

たとえ相手が詐欺を行っていたとしても、電話を掛け続けて回線を使えなくするのは別の犯罪なように思います。この開発者が名前を明かさず、寄付もBitcoin経由で受け付けているあたり、やっている方もわかっているのだと思いますが。動画があっというまにバイラルで広まり、この彼をヒーローだと評するコメントも多数集まっているのは、普段こういった詐欺的なメッセージに悩まされたり時間を取らされたりしている人が多いことの現れかもしれません。

京都府警が詐欺グループの電話番号に対して同様の攻撃を掛けた、というのが先月NHKニュースで報じられていた(記事は消えているのではてなブックマーク)ので、相手が悪いとわかってるなら構わない、とか、警察がやるなら構わない、とか、人によって意見がわかれるところなのかもしれないですね。

via BGR