サイボウズ・ラボユース
「サイボウズ・ラボユース成果発表会2026」開催
こんにちは、光成です。本記事では2026年3月25日に開催されたサイボウズ・ラボユース成果発表会2026の模様を紹介します。
サイボウズ・ラボユース
サイボウズ・ラボユースとは日本の若手エンジニアを発掘し、育成する場を提供する制度です。
ラボユース生が作りたいものをサイボウズ・ラボの社員がメンターとしてサポートし、開発機材や開発活動に応じた補助金、旅費の援助をします。 開発物をオープンソースとして公開するという条件のもとで著作権は開発者本人に帰属します。
詳細は2021年のまとめ記事「若手エンジニアの育成と輩出を目的とするサイボウズ・ラボユースが創立10周年」もご覧ください。
4月からはまた新たな募集が始まります。 4月3日には募集説明会をオンライン開催するので興味ある方はご参加ください。
サイボウズ・ラボユース募集説明会 2026 (オンライン開催)
以下、各メンターごとに発表者の資料やGitHubへのリンク、講評を記します。
内田担当
minc - C言語で動く最小限のCPUを目指して - GitHub
清水 星那さんはこれまでロジック IC を組み合わせて小規模な CPU をいくつか作ってきたのですが、FPGA での CPU 設計&実装とコンパイラ作りは初挑戦です。 コンパイラと CPU を同時並行で開発するというスタイルで、コンパイラ作りも FPGA での回路設計も同時に学びつつプロジェクトを進めています。 プロジェクトを開始して半年ですが、既に C 言語のサブセットが動くようになっています。
CPU の設計は、C 言語プログラムを動かせるという条件を満たしつつ、回路規模をなるべく小さくすることを目標にしています。 ただし、回路規模が小さくなる代わりに動作速度が大きく落ちてしまうような工夫(1 ビット幅の ALU を時分割で使うなど)は避けているそうです。
これまで作ってきた独特な仕組みで回路規模を小さくした CPU と、C 言語をサポートするために作る今回の CPU の違いを味わいつつ、これからも進んでいきます。 ラボユース期間が終わる半年後までにどこまで作れるか、楽しみです。

Raspberry Pi 5におけるAMP (Asymmetric Multiprocessing) の実現 - GitHub
番匠 夏希(X)さんはRaspberry Pi 5 に積まれた 4 つの CPU コアのうち 3 つで Linux を動かし、残り 1 つで RTOS を動かす構成に挑戦しています。 これにより、高機能だがリアルタイム性がない Linux と、簡易な機能だがリアルタイム性を持つ RTOS を組み合わせたシステムを作れます。 普通はこういう場合に RTOS を動かすマイコンを加えると思うのですが、Raspberry Pi 5 のみで完結させ部品点数を減らしコストと故障点の削減を狙っています。
Raspberry Pi 自体、かなり特殊なアーキテクチャになっており、ベアメタルプログラミングをしづらいことで有名なところ、 Raspberry Pi 5 から RP1 という I/O コントローラが追加され、さらに使いこなしが難しいコンピュータになりました。 番匠さんはそういう困難にぶつかりながら、Raspberry Pi 5 を芯まで使いこなすべく、これからもプロジェクトを進めていくでしょう。

光成担当
省電力コプロセッサをsafeに使うRustライブラリ - GitHub
鈴木 豪さんはESP32という省電力コプロセッサをRust上で安全に使うためのライブラリを開発しました。 メインプロセッサとコプロセッサとの間のデータのやりとりをするとき、従来はアドレス直書きのunsafeなポインタを介する必要がありRustの良さが失われていました。 そこでデータのやりとりをマクロとライブラリで隠蔽し安全に使えるようにしました。 Rustの仕組みと使い勝手のよさを両立させる設計に苦労しました。 開発中には本家ライブラリのバグをいくつか見つけてpull requestを出して採用されてOSSにも貢献しています。 今後の機能拡充が楽しみです。

LLVMのDSL"TableGen"向け言語サーバーの開発 - GitHub
安藤 慎 (X)さんは快適に動作するTableGenの言語サーバを開発しました。 TableGenとは主にLLVMのバックエンドからC++を生成するために利用されているDSLです。 従来のTableGenの言語サーバは反応がとても遅かったのですが、レスポンスを高速にすることでTableGenによる開発時のコード補完やドキュメント表示が快適になり、開発効率が上がります。 TableGenは活発に開発が進められているためドキュメント化されていない部分の処理や実装に苦労しました。 それでも着実にエラーを減らし、一部のバックエンドでエラーが無いようにするところまで進められました。 とても堅実に安定して開発されていたのが印象的でした。

異なる複数のOS向けバイナリが実行可能なOS Scarlet - GitHub
鬼頭 太郎(X)さんはScarletという独自OSを開発しました。 当初はRISC-Vエミュレータを内蔵し、xv6やLinuxの一部実行バイナリをそのまま実行できる互換レイヤを持つ機能を開発していました。 開発中にどんどんやりたいことが増えて、後半ではAArch64エミュレータやWayland互換機能を持つWindow System、Swift UIライクなUIフレームワークなど多岐に渡って機能を追加しました。 LLMを併用したその開発スピードは非常に高いものがあります。 ただ、時々顕在化していたOSのメモリ管理回りの不備を後回しにしていたツケがたまり、最後には大幅な刷新に苦労されました。 その部分ではLLMではなく自力で解決しないといけなかったのは面白いところです。 今後もより完成度を高めて勉強会などで発表する予定なので楽しみです。

星野担当
FORMIX: ベンダー介入も秘密鍵共有も不要なアクセス権付与プロトコル - GitHub
樅山 翔大(X)さんは、卒業式と日程が重なったため、今回は事前録画での発表となりました。 開発テーマは、第三者を介さずにアクセス権を共有・委譲できる仕組みの実現です。 そのために、分散ストレージ・分散計算基盤の上で、シャミアの秘密分散やプロキシ再暗号化といった技術を組み合わせています。 当初は仮の名称で少し覚えづらかったのですが、その後 FORMIX というカッコイイ名前がつき、プロジェクトとしての輪郭もよりはっきりしたように思います。 実際にデモが動くところまで進められたのは、とても良かったと思います。 今後も開発を続けていくとのことなので、これからの発展を楽しみにしています。

川合担当
独自OS「Shizuku」のデモとOSC出展報告 - GitHub
石垣 有逢(X)さんはOSを作ることにかけては、異常かもしれないくらいの情熱と野心を持っていて、 うまく形にできれば絶対に面白くなると確信しています。しかしある程度できあがってくると、 書き終えたはずの部分が気に入らなくなって、さかのぼって書き直したくなる衝動が発生して、 前に進めなくなることがありました。その気持ちは私もよくわかるので共感しつつ、 なんとか抑えてもらって、まずはひとまず使えるレベルまで作り切って、それから作り直そうよと アドバイスしています。 今回は自作のOSを使って電子工作の制御をやっています。すごく成長したなと思っています。

3Dモデルを自由に動かすためのプログラミング言語 - GitHub
Sin0n0meさんは自分の作りたいものを自力で作り続けられる十分な実力があるのに、 発表にも強い苦手意識を持っていて、そこがとてももったいないのです。でも今回はいい感じです。 今回は今まで作っていたゲーム開発向け言語をいったん保留にして、大好きなキャラクターを 動かすアプリケーションをメインにして、その制御のために自作の言語処理系を組み込んでいます。 この作品からはキャラクターに対する愛情が感じられて、私は大好きです。 これからも楽しく開発を続けて腕を上げてもらって、発表の経験も増やしてほしいです。

アルゴリズムを簡易に記述するためのプログラミング言語 - GitHub
鳥海 翔一さんは競技プログラミングを快適にやるために自作の言語を作りますということで、 「自分が使うために自分で作る」という私のコースのモデルケースのような開発テーマです。 アルバトは「これは確かに競技プログラミングで使えそうだな」って共感できる機能が 用意されていて、やっぱり使う人の視点が生かされているなと感じます。 鳥海さんは普段は物静かですが、話してくれる内容はとても面白くて、いつも楽しみにしています。 これからも競技プログラミングは続けてほしいですし、利用者目線での開発を続けてほしいです。

開発効率と性能の両立を目指すRust連携プログラミング言語Kaede - GitHub
平本 一桐(X)さんは当初、純粋にかっこよくて便利そうなプログラミング言語を作ろうということで順調に開発が 進んでいましたが、私のコースでは自分が作ったものを自分で使うことを重視しているので、 自作言語を使ったアプリケーションも並行して開発するようにアドバイスしました。 それで利用者目線で足りない機能に気づいて改良してくれたので、私の意図が伝わったなと 思っています。 平本さんはいつも明るくて元気なので、ミーティングの際のムードメーカーです。いっしょに 仕事をしたら楽しいだろうなと思うタイプです。 これからも開発を楽しんで続けてほしいなと思います。

中谷担当
Invisible Consent: LLMエージェントによるブラウザ操作はプライバシーを担保しない
片岩 拓也さんの発表: 最近 OpenClaw や Claude Cowork などといった、今までユーザが使うものだったブラウザや Office スイートなどを AI が自律的に操作するツールが流行っている一方、その際のセキュリティについて懸念も高まりつつあります。片岩さんの研究テーマはまさにその AI にブラウザを操作させたときのリスクの定量化とそれを軽減する方法に関するものです。例えばブラウザでサイトを訪問した際に cookie を受け入れるかどうかのダイアログについて、AI には許可しないようにプロンプトで指示をしておいても、ダイアログの表示の仕方によって意図しない選択をしてしまうことがあるといった実験について報告してくれました。本研究で片岩さんはヒューマンコンピュータインタラクションの国際学会 CHI 2026 LBW に採択されています。まさにこれからホットになり続けるテーマであり、さらなる発展を期待しています。

Multimodality Is All You Need - GitHub
設楽 朗人(X)さんの発表: 近年のAIの発展はLLM(大規模言語モデル)によるものですが、その技術を時系列モデルに用いたものを時系列基盤モデルと言います。設楽さんは、その時系列基盤モデルにテキストを組み合わせたマルチモーダルな時系列基盤モデルの実現をテーマとしています。具体的な応用イメージとしては、株価の変動グラフから値動きを予測する AI モデルに、証券会社のレポートを組み合わせられるようになる、といったものが想像しやすいかもしれません。もともとの時系列基盤モデルは数値だけを扱うもので、そこにテキストを組み合わせることは少々チャレンジングなテーマでしたが、うまく学習できるようになってきており、ちょうどこれからおもしろくなっていく研究と期待しています。設楽さんの狙っている応用にさらにつなげていけるようにこれからも応援していきます。

懇親会
懇親会では前年ラボユース生だった川崎さんがLTをしてくださったり、石垣さんが作ったリモコンカーを動かしてくれたりしました。お互いの発表の詳細の議論も活発に行われて交流が深まりました。
