サイボウズ・ラボユース
サイボウズ・ラボユース夏合宿 2026 を開催しました
サイボウズ・ラボの中谷です。サイボウズ・ラボユースの活動の一環として、今年も夏合宿を開催しましたので、その報告をさせていただきます。
サイボウズ・ラボユースについて サイボウズ・ラボユースは、日本の若手技術者の発掘と育成を目指し、より良い研究開発の機会を提供するための制度です。サイボウズ・ラボのメンバーがメンターとなって、ラボユース生の希望するテーマに沿った研究開発を技術的に支援しつつ、機材や補助金、旅費などを援助しています。開発したソフトウェアはオープンソースとして公開していただきますが、成果物の著作権は開発者本人に帰属します。 その他詳しいことはサイボウズ・ラボユースの案内ページをご覧ください。
現在、サイボウズ・ラボユースはリモートでの活動が主となっており、対面での活動は残念ながらほとんどありません。リモート中心の活動は、遠隔地の学生にもサイボウズ・ラボユースに参加してもらえる大きなメリットがある一方で、ラボユース生同士の交流が乏しくなってしまうという問題もあります。
その解消を図るために、サイボウズ・ラボユースでは夏合宿と成果発表会という、全国のラボユース生を一堂に会するリアルイベントを毎年開催しています。昨年のそれらのイベントもブログで報告しておりますので、興味あればご参照ください。
サイボウズ・ラボユース夏合宿 2026
今年の夏合宿は、2026年8月26日(水)~28日(金)の3日間で開催しました。現役生・研究生13名、OB/OG 5名、ラボ社員10名、総勢28名の参加者が2泊3日で泊まり込み、おのおのの研究開発や議論を行いました。 普段のラボユースの活動はオンライン中心で、進捗報告はチャットや掲示板、メンターとラボユース生の一対一でのビデオ会議ですが、合宿なら隣の席でキーボードを叩く音を聞きながら「うまくいかないんですよね~」と机を挟んで聞いたり、開発している物理デバイスを見せてもらったり、ちょっとした困りごとに相談して思いがけないアドバイスをもらったりと、普段のリモートだと難しいことができるのが魅力ですね。
合宿会場は、例年利用している三浦海岸のマホロバ・マインズ三浦でした。今年は三浦海岸の海水浴場もオープンしており、絶好の海水浴日和の中、室内で開発三昧を楽しみました。

研究テーマ紹介
ラボユース合宿のメインは開発、そして議論です。 普段は顔を合わせることの少ない他のラボユース生ともいろんな議論ができるチャンスです。実際、会場のあちらこちらで活発な議論が行われていました。現役生同士だけでなく、参加してくれたOB/OGがユース生の相談に乗ったり、議論に加わったりする場面もしばしば見られ、横だけでなく縦のつながりもできるのが合宿ならではです。 むしろ活発すぎて、隣の声が聞こえないくらい騒々しくなってしまい、しかたなくこちらも大きな声を出す、みたいな良くないフィードバックループが回ってしまっていたのもちょっとしたご愛敬ですね。
紙数の関係で全員分の研究を紹介するのは難しいので、ここではいくつかのテーマについてご紹介しようと思います。
ESP32の省電力コプロセッサを快適に使う
鈴木 豪さんのテーマは、ESP32の省電力コプロセッサ(LPコア)をRustで安全に使うライブラリの開発です。普通にLPコアを使うプログラムを書くと、アドレス等を自分で指定することになり面倒です。そこで、unsafeなしでLPコアを扱えるRustライブラリ「mtukai」を開発しています。これで太陽電池で動くくらい省電力なデバイスが快適で安全に開発できるようになりますね。
自作OSのGPUドライバーをAIに移植させる
鬼頭 太郎さんのテーマは自作OSをChromebookに移植することです。GPUドライバーの開発が大変なので、そのエンジニアリングをAIに任せる仕組みを作りました。Raspberry PiをUSBストレージとして見せてOSイメージを転送→自動ブート→結果がコンソールに流れる→AIがそれを読んでドライバーを修正、というループです。
ハマりどころは電源で、Raspberry Piが5V・3A要求するのに対しPC側のポートは5V・1Aしか渡せないため、今は一晩中まるまるは動かせないそうですが、それでも「深度が逆で奥だけ見える」という描画の症状をAIが朝までに直してくれたとのことで、本人いわく「自力なら1か月規模」だそうです。電源さえ確保できれば「寝てる間にドライバー移植が終わる」時代が来るかもしれません。
分散ストレージを自分で再実装
秋山 広樹さんは分散ストレージを再実装しています。既存の分散ストレージシステム(Ceph)の初期セットアップで用語が大量に出てきて挫折した、というのがきっかけだそうです。「とりあえず使える」ではなく自分で実装して理解したい、ということでモニター/OSD構成のクローンを実装しました。デモではその場でモニターのプロセスを止めて、停止の検出確認までやってもらいました。
機械学習用のゼロ知識証明ライブラリ
稲垣 凛太郎さんは機械学習モデルの処理に特化したゼロ知識証明(ZKP)ライブラリを作っています。闇バイト等に使われやすい暗号化チャットで、送信文が不適切でないことを受信側に内容を開示せずに証明できる、というユースケースを想定しています。
FHE(完全準同型暗号)ではなくZKPを選ぶ理由は、FHEだと判定モデルを運営側が適用することになり、判定基準がユーザーから不透明になるためです。基準に偏りがあればそれはもう検閲です。ZKPなら判定基準をクライアント側に配布してユーザーの環境で証明できます。「Signalのように実装を公開して第三者監査で信頼を得る」というところまで話が及びました。
女性声優モーニングコールシステム
安田 陽真さんのラボユースの主テーマは2Dキャラクターを動かせるLive2D代替のメッシュ変形ライブラリ「kokoro/rig」ですが、ここではLTで発表されていたモーニングコールシステムを紹介します。 名前通りのシステムですが、声優さんが公式に配布されている目覚ましボイスを電話機から鳴らせばモーニングコールになる、そのために IP 電話を手に入れよう、せっかくならWireGuardでつながっている友人にも届けたい、というストーリーがおもしろく、また実際に自分が起きるのに使っているのもポイント高いです。
LT(ライトニングトーク)
また、ラボユース合宿ではLT(ライトニングトーク)の時間が毎日設定されているのも特色です。 一般的な開発合宿では、最終日に合宿の成果を発表して共有するスタイルが多いでしょうが、LTの時間を分散し、自由なテーマでしゃべってもらっていいというスタイルを採用しています。もちろんラボユースの研究テーマや合宿中にやっていることが発表の中心でしたが、他に自分の趣味やユニークな経験を語る発表も多かったです。 また、LTの時間以外にもゲリラ的に好きなことをしゃべってもらうのもOKで、気軽にいろんな話題を話してくれていました。
LTで上がっていた話題を順不同にあげておきます。
- 計測の話(オシロでもIntel Pinでもperfでも、計測は最初から最後まで難しい)
- フェリーの旅(瀬戸内海のフェリーは揺れなくて初心者向き、シルバーフェリーは雑魚寝スペースが残っている)
- ログ基盤(LokiとElasticsearchの立ち位置)
- ラッキング(一般家庭でラックごとに別電源系統を引く難しさ)
- 自作言語・ゲームエンジン(吉里吉里!から始まってHindley-Milnerまで飛びました。biwac)
- 空間IDとGIS(Occupancy Predictionベースの自動運転レベルならOctreeで間に合う、という話も)
- FlexTreeへの集合演算
- ニューロンの発火によるネットワーク(Spiking Neural Network)とドーパミンによる学習促進
- 自作キーボードのすすめ
- スパイスカレー
- プログラム高速化のための様々な戦略(計測・キャッシュ・並列化・同期・メモリアロケーションなど)
OST
2日目の午後は、交流の促進を期待して例年通り OST(Open Space Technology) を開催しました。OSTとは、参加者が思い思いのテーマを出し合い、ディスカッションを行う手法です。
最初のテーマ出しから大変盛り上がり、5枠×3セッションを大きく超えるテーマが寄せられ、近いテーマ同士を自発的に統合するほどでした。

「ガジェット」「新・定番マイコン」「持続可能なオープンソース」といった技術ネタだけでなく、「推し書籍」「料理」「旅」といった趣味に全振りしたテーマもあり、活発なディスカッションが行われました。

お食事と温泉
合宿の楽しみと言えば食事もありますよね。さまざまな開発合宿を渡り歩くような経験豊富な学生さんにも、サイボウズ・ラボユース夏合宿の食事はおいしいと評判です。


また、この会場には天然温泉の大浴場もあり、開発に集中して疲れた体も癒してくれました。
こうした楽しい合宿やラボユースの開発支援にご興味を持たれましたら、毎年4月から5月にかけて新規ラボユース生を募集しておりますので(一部のコースは現在も募集中)、サイボウズ・ラボユースのページからぜひご応募ください。お待ちしています。
