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ネットの事件

冷静に、彼女を殴りつづけよ – 有名フレーズを乱数でパロディ化したTシャツを販売していた企業が、とんでもないフレーズの自動生成で大炎上

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ソリッド・ゴールド・ボム社がイギリスのアマゾンで売っていたTシャツのメッセージがソーシャルメディア上の大バッシングを受け、英アマゾンからこの会社の全Tシャツが撤去される騒ぎに発展しています

オリジナルは第二次大戦中のポスター

元ネタはKeep Calm and Carry Onという王冠と文字を組み合わせたシンプルなポスターで、

オリジナル Keep Calm and Carry On

ウィキペディアによると、これは第二次世界大戦でイギリスが国民に対して「冷静に、戦い続けよ」と呼びかけた戦意高揚の文句でしたが、戦時中に有名になったわけではなく、2000年に再発見されてから有名になり、インターネットや多数のグッズによって広まった、古くて新しい標語ということです。

短いメッセージであることや構成も単純なことから、これまでにも多数のパロディが作られているようです。

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2009年にはニューヨークタイムズが、Keep Calmミームの近年の流行や、大戦当時の状況、これらパロディポスター・グッズの大流行について解説していました。

炎上の経緯

ツイッターユーザー @LizJ73 が「発見」し、間違ったサイトを告発する @nomorepage3 にタレコミした3月2日のツイートが今回の炎上の発端のようですが、

Amazon UK上で販売されていた、”Keep Calm and Rape a Lot” (冷静に、彼女をレイプし続けよ)というパロディTシャツに始まり、以下のような様々な問題のあるパロディTシャツが見つかり、

  • “Keep Calm and Hit Her” (冷静に、彼女を殴りつづけよ)
  • “Keep Calm and Choke Her” (冷静に、彼女の首を絞め続けよ)
  • “Keep Calm and Knife Her” (冷静に、彼女をナイフで刺し続けよ)
  • “Keep Calm and Grope a Lot” (冷静に、彼女を痴漢し続けよ)
  • “Keep Calm and Rape a Lot” (冷静に、彼女をレイプし続けよ)

ツイッターを中心に「こんなものを売ってていいのか」「Amazonは何をやってる」「販売元は売るのを止めろ」といった苦情が、販売元やアマゾンUKに大量に届けられました。

なぜこんなTシャツが作られたか?

ソリッド・ゴールド・ボム社は謝罪声明をサイトに掲載し、同社およびアマゾンからは、問題の無さそうなものも含めて全てのTシャツが撤去されています。

Facebookページには以下のような謝罪が。

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謝罪までこの形式とは。

謝罪文に書かれたことがどこまで本当かはわかりませんが、同社の説明によれば、すべては「コンピューターのミス」によって引き起こされたものなんだとか。

一年前に作成されたこのパロディTシャツシリーズは、クラウドコンピューター上で動詞と”Him”, “Her”, “On”, “Off”, “a Lot”などターゲットを表す単語の組み合わせを20.2万種類生成し、デザイン的に”Keep Calm”部分とバランスが取れたり、ポスターに収まる長さのものを、そこから1100種類、最終的には700種類ちょっとに絞り込んで作成し、そのまま販売していたそうです。(報道で出ている8,425種類というのは、サイズや色のバリエーションを全部含めたもののようです)

つまり、一つ一つのフレーズが、侮辱的だったりしないかだけではなく、英語として正しいか、意味がつながるかといったこともまったく人手で確認することなく、作ったものを全部売りに出した、ということですね。炎上を伝えるメディアの中には、実際に意味が通らない文言のTシャツを同シリーズから見つけたとしているところもありました。

ウェブが実現した商法と今後の予測

この手のTシャツ販売商法は、マグカップやポスターなどについても同じことが言えますが、インターネット以前の時代なら有り得なかった方法を取っているところも多いのでしょうね。昔なら、デザインを決めて数百着のTシャツを工場に発注して作り、それを一定数売るまで利益は出ないどころか、変なものを作って売れ残ったら赤字だけが残ったでしょう。

今は、どんなものが出来るのかという製品の見栄えはコンピューターで自動生成され、世の中に実際にそのTシャツが存在しなくても注文を取ることができます。注文が入ってきたら初めて、そのTシャツを生産して発送すればよい。画面上のデザインを仕入れた無地のTシャツに載せるのも、工場じゃなくて自宅や小オフィスのプリンターがあればできてしまいます。

AmazonやeBayなどで出品するにしても、無店舗でTシャツ本体もまだ無いのですから、在庫の心配をする必要がありません。売れた時に払う手数料しか掛からないので、1種類売るのも700種類売るのも、出品部分をプログラム化してしまえば手間は変わりません。

デザイナーやプランナーが「こういう文句だったら大量に売れるはず」と予想してそれに賭けるのではなく、大量のバリエーションを自動生成してカタログに載せておけば、そのうちのどれかが誰かの気に入るだろう、それが話題を呼んで突然大量に売れることもあるかもしれない、ということなんだろうと思います。

今回の”Keep Calm”シリーズは、オリジナルの製作が第二次世界大戦中で、イギリスという国が作ったもので、文言や王冠マーク、デザインのすべてはパブリックドメインということになるそうです。つまり、このパロディをいくら作っても、著作権料を要求されたりすることは無いわけで、元手が掛からないところからランダムに生成したものをいくら出しても、損をするところが無い、というわけですね。

コンピューターの自動生成をあまりにチェックしないために大炎上という落とし穴にはまった同社ですが(すべてコンピューターのせい、という同社の言い分が正しかったとしてですが)、たぶん、Keep Calmグッズを作って売っていた似たような会社は多数あるでしょうし、この他のインターネット・ミームについても同様の商売をしている会社は世界中にあると思われます。

この炎上事件で気づかされたのは、世の中にこういったランダムに生成されたコンテンツが増えていて、それに気を引かれて対価を払ったりする人も増えているのだろうということです。Tシャツもそうですが、ネット上の文章や写真、動画などについても、プログラム的に、あるいはプログラムの支援を得て大量に作ってばらまき、当たりを待つ、あるいは薄く広く当たればリターンが得られる、といった態度のものが、ますます増えていくのかもしれないな、ということです。

via Miss Representation » Blog Archive » Amazon UK Selling “Keep Calm and Rape A Lot” T-shirts, BBC News – Amazon row over 'rape' T-shirt

[更新 2013-06-26]

CNNが、この業者の廃業を伝えています。CNN.co.jp : 「レイプ」Tシャツの販売元が廃業 ミスが命取りに

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アメリカ ネットの事件

「白鯨」の絵文字翻訳版がアメリカ連邦議会図書館に収蔵されることに

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19世紀の捕鯨をテーマにした名作「白鯨」(モビー・ディック, Moby-Dick)を、絵文字・ディック(Emoji Dick)というタイトルで、

  • 日本の生んだ絵文字だけを使い、
  • 全編クラウド・ソーシングのAmazon Mechanical Turkで発注し絵文字で書き直させ、
  • クラウドファンディング・サービスのKickstarterで募金を募って出版費用を集める
    • という、これ以上ないぐらいに最新のソーシャルなウェブを活用して出版されたのですが、この著者フレッド・ベネンソンさんによれば、つい最近アメリカの連邦議会図書館から連絡があり、この「絵文字版白鯨」が収蔵されることになったのだとか。

      emoji-dick-sample

      古い文学作品と最新のインターネットという組み合わせで(おそらく)世界で最初に出版されたフル絵文字文学、ということで、史料価値があると認定されたのでしょうね。

      via Library of Congress Accepts First Emoji Novel

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ネットの事件

グーグル検索で特定の数式”-4^(1/4)”を与えるとアダルトサイトが表示されるバグが発見される

英語の質問サイトQuoraにて、「グーグルで”-4^(1/4)”で検索するとなぜかポルノサイトが出てくるんだけど?」という質問が話題になっています。実際に手元で検索してみても、アダルトサイトばかりが検索結果に表示されます。

-4^(1_4)

「セーフサーチ: 強」の時はさすがに何も出ないようなので、何がなんでもアダルトな結果を見たくない人にまで見せてしまうという事故にはならずに済んだ模様。

この質問を見て試してみた人たちの「俺も俺も」の証言が集まってきた結果、この数式に限らず、桁数の数字が3つ並んでマイナス記号を含む一定のキーワードで、この結果が引き起こされることが絞り込まれてきました。

この質問は先月にされたようですが、一昨日になってQuoraにGoogle検索チームのエンジニアが登場し、これがグーグル検索のバグであることを認めました。そして彼は、実際にどういう条件でアダルトサイトの検索になってしまうのかを説明しています。

アダルトサイトを出してしまう数式は、必ずしも

“-4^(1/4)”

という形である必要はなく、グーグル検索の内部では、この数式は

-4 “1 4”

と同等の扱いなんだそうです。この検索は、

  • -4 : 4を含まない
  • “1 4” : 1と4が連続している

の両方を満たすもの、という意味で、両者は矛盾しているので、検索結果は本来なら0件になるはずです。

しかし、この矛盾した検索指示にマッチしてしまうウェブサイトが、どうもグーグルのデータベースの中に存在し、それらが表示されてしまう。それこそが今回のバグの原因だ、ということだそうです。

なぜかわかりませんが、グーグルの内部で、今回表示されてしまうようなアダルト系のページが、これらの存在しないキーワードに結び付けられてしまっているようですね。

たとえば、こんなキーワードでも、症状は発生しました。

-1 “1 b”

Quoraの回答者たちが示した組み合わせとしては、以下のようなものも効くようです。

“1 2” -1
“1 2” -2
“9 8” -9
“h 3” -h
“15 12” -12
“apple 1” -apple
“apple 1” -1

Quoraの他のある回答者は、アダルトサイトは検索上位に出るための工夫(SEO)をものすごく頑張っているので、ありとあらゆるキーワードで引っかかるようになっているのだ、と予想していましたが、機械的にいろんなパターンを生成してグーグルを騙そうとした結果が、効いたという可能性もあるのかもしれません。

このバグは現在修正するよう頑張っている、ということなので、試せるのはあと少しの間かもしれません。

今修正に追われている中の技術者には気の毒ですが、これだけ広く使われている、現在世の中にある中でも最も複雑で大規模であろうwebサービスにおいてこんなバグが有り、しかもバグの出方が笑ってしまうような結果、というのはすごいですね。

これまでにもこのバグを見つけてた人は何百人といたのかもしれませんが、疑問に思ってしかるべきところで質問してみるというのは重要ですね。

via Google search bug returns porn results for 'contradictory queries' | The Verge